400字で斬る国際情勢ニュース(752)

◆物言えば唇寒し。。。◆
(2004/09/17)

 かつて国連事務総長の一言が1国の国家元首・首班の言葉よりも重きをなし
ていた時代がある。コンゴ動乱調停の途次、1961年に飛行機事故で死亡し
ハマーショルド総長ぐらいまでがそうだった。国際連盟の無能ぶりや第2次
大戦を教訓に創設された国連が、国際紛争の平和的解決に大きく寄与できると
期待されていた時代背景もある。

 時代は下って9月15日、アナン事務総長が英BBC放送とのインタビュー
で、米国の主導する有志国連合のイラク侵攻は違法であり国連憲章に抵触する
と言明。同早朝は「イラクを攻撃するかどうかの決定は安保理で行われるべき
であり、単独で決定すべきではなかった」と断言。

 イラク戦争をめぐっては、パウエル米国務長官が9月13日、上院政府活動
委員会での証言で、開戦理由だったイラク大量破壊兵器は今後も発見できな
いとの見方を表明、開戦理の大きな根拠だった情報が誤っていたことを初めて
認めた。それだけに、アナン総長の「国連憲章に照らして違法」発言は、日本
を含むイラク派兵国にとっては泣きっ面にハチ。

 10月9日に総選挙を控えているオーストラリアのハワード首相は、「イラ
ク戦争は完全に合法」と口を極めて反論。川口順子外相も9月16日、日本記
者クラブでの講演で、「米国の取った行動が国連決議にのっとったものかも(
当時)検証した。一連の決議に従わなかったのはイラクだ」と強調。

 細田博之官房長官は9月16日午前の記者会見で、アナン総長発言に関し「
イラク攻撃の根拠となった)安保理決議との関係で、どのような観点で言っ
たかはっきりしない。真意を照会し、確認したい」とした。パウエル証言につ
いても、真意を米政府に確認するよう外務省に指示したことを表明。

 米国はというと、共和党民主党とも国際官僚に米国の国家安全保障を委ね
ることはしないという点では一致しており、今のところコメントは出ていない

 米英とアナン総長の言い分は互いに平行線で交わることはない。問題は、こ
のアナン発言が、イラクで数々の反米テロを繰り返している殺人・誘拐集団を
勢い付かせないかということだ。非合法なことをやっているのは米英であり、
それに対する抵抗は当然の権利と曲解する犯罪集団の横行を助長することにつ
ながることを大きく懸念する。(了)

国際ジャーナリスト連盟(IFJ)会員
国際情報ファイル・深層海流主幹 石川純一(文責)