「アラファト時代の終わり」 議長、病気治療で仏到着(ASAHI)

 中東紛争を象徴したパレスチナ自治政府アラファト議長は29日、白血病とみられる病気治療のため、フランスに到着した。長期療養とみられ、同議長を「テロの黒幕」と攻撃してきたイスラエルは「アラファト時代は終わった」とみる。しかし、後継者争いでパレスチナ地域がさらに不安定になる懸念は強い。中東和平の仲介役の米国は大統領選を控え、後継人事が不透明なこともあって「待ち」の姿勢だ。

 アラファト議長を乗せた黒いベンツが、ヨルダン軍の輸送ヘリにぴったりと横付けされた。議長府の敷地で取り囲んだ数百人の群衆からは、「アブ・アンマール(アラファト氏のゲリラ名)、我々の魂と血をあなたにささげる」の連呼。議長は「インシャラー(神のお許しがあれば)、また帰ってくる」と言い残したというが、額面通りに受け取る向きは少ない。

 2年半にわたるイスラエル軍の包囲の中で、パレスチナの抵抗の象徴だった議長が自治区を離れたことで、政治的な空白が生まれることは必至だ。議長の重しがはずれて権力闘争が噴出すれば、パレスチナ地域は急激に不安定になりかねない。

 今後はクレイ首相とアッバス前首相が協力する形で、議長不在に対処する。自治政府を牛耳ってきた旧世代だが、議長の不在が長引けば、急速に求心力を失う可能性がある。イスラエルに対する00年秋以降の武装闘争で前面に立った30代、40代の若手世代が、主導権を求めて旧世代の追い落としを始める、との見方が有力だ。

 ハマスなどイスラム過激派との関係も、困難に直面しそうだ。ハマスも長老のアラファト議長のもとでは敵対姿勢はとらなかった。しかし、今後は現状に不満を募らせるハマスの力関係が一層強まり、過激派が権力闘争で台頭する可能性がある。

 イスラエルシャロン首相は同議長を「テロの黒幕」として軍事圧力をかけ続けた。しかし実際は、現実的穏健派の議長がパレスチナ過激派の暴走を抑えてきた側面もある。過激派の台頭はイスラエルにとっての脅威で、軍事的な衝突が続くことになりかねない。イスラエル紙によると、情報当局は28日午前、同首相に「議長は末期の白血病アラファト時代は終わった」と報告した。

 パレスチナで誰が「アラファト後」の実権を握るにせよ、体制が安定するまでは、難しい妥協が求められる和平交渉の本格化は期待できない情勢だ。

(10/29 21:32)