露エネルギー戦略 国営石油が主導権 財界でも旧KGB主役

会長に大統領側近…“変貌”
 【モスクワ=内藤泰朗】ロシアのエネルギー企業再編をめぐり、一年前までは小さな影響力しかなかった唯一の国営石油企業ロスネフチが主導権を握ったことが、このほど明らかになった。プーチン大統領が強い信頼を置くとされる旧ソ連国家保安委員会(KGB)人脈を昨年夏に送り込んでから同社は大きく変貌(へんぼう)。旧KGB勢力は政界のみならず、財界の主役にも躍り出た。
 プーチン政権は、石油や天然ガスなど豊富なエネルギー資源を武器にした旧ソ連圏の再支配を狙っているとされるが、当初は、そのために世界最大の天然ガス企業体ガスプロムに国営石油企業のロスネフチを吸収合併させようとして、巨大な国営エネルギー企業体の創設に向けて動いてきた。
 しかし、ガスプロム側に当初予期せぬ資金問題が起きたことからこのシナリオに狂いが生じ、同社のミレル社長は十八日、ロスネフチの吸収合併を断念し、ガスプロムの全発行株式の約四割を保有する政府に自社株式を売却することで完全な国営企業となることを明らかにした。
 地元の報道によると、ロスネフチ側が、発行済み全株式の約10%分に当たるガスプロム株を百三十億ドル(約一兆四千億円)で来月二十四日までに国に代わって買収する計画であることも明らかになった。
 ロスネフチは、ガスプロムの株式を直接取得することでガスプロムへの発言権を増し、同社への影響力を行使できるようになる。これにより当初、ガスプロムを中心に描かれてきた新国営エネルギー企業体の青写真は一転、ロスネフチが主体となることが決定的となった。
 ロスネフチ社は昨年七月末、プーチン大統領がその会長に側近のセチン前大統領府副長官を送り込むまで、ロシアでの石油生産シェア約4・5%と、石油業界第六位の影響力の小さな企業だった。
 だが、その五カ月後の昨年末に巨額脱税の追徴で破綻(はたん)したロシア石油大手ユコスの六割の石油を産出する中核子会社を不透明な方法で吸収し、一挙に石油生産シェア20%の最大手に躍り出て、情勢は一変した。
 エネルギー戦略の主導権がロスネフチに移ったことは、大統領と同じKGB出身の最強硬派で、ユコスの巨額脱税事件やホドルコフスキー前同社社長逮捕を指揮した陰の人物であるセチン会長人脈がガスプロムとの暗闘で勝利したことを意味する。
 ロスネフチは、急速な経済成長を遂げエネルギーが不足する中国やインドなどと関係強化に動いており、財界における旧KGB勢力の影響力は今後、一層強まるものとみられる。
産経新聞) - 5月21日2時46分更新