カスピ海−地中海 パイプライン完成 旧ソ連諸国、露依存脱却

「米国主導」に参加相次ぐ
 【モスクワ=内藤泰朗】石油の宝庫カスピ海からロシアや中東を経由せず欧米に石油を運ぶためのパイプラインが完成、25日、祝賀式典がアゼルバイジャンの首都バクーで盛大に執り行われる。石油関係者はエネルギーで旧ソ連圏再支配をもくろむロシアの野望を打ち砕く「革命的な出来事」と評価。カザフスタンウクライナなど旧ソ連圏も、エネルギー面で脱ロシアの動きを加速させている。 
 完成したのは、カスピ海沿岸のバクーからグルジアの首都トビリシ近郊を経由し、トルコの地中海沿岸のジェイハンに抜ける全長千七百六十キロの通称「BTCパイプライン」。エネルギー安全保障に力を入れる米国主導の下、二〇〇二年九月に着工し、完成にこぎ着けた。ロシア、中東を経由しない「欧米の新たな生命線」と位置づけられる。
 バクーからの報道によると、二十五日の式典には、アゼルバイジャンのアリエフ大統領のほか、BTCラインに関係するグルジア、トルコの両首脳が出席する。だが、注目されるのは、旧ソ連圏でロシア、アゼルバイジャンに次ぐ石油大国カザフのナザルバエフ大統領の動向だ。
 中国向けの独自ルートを建設中のカザフは、欧米向けではロシアの既存パイプラインに頼ってきた。BTCは、ロシア依存から脱却できるルートとなるため、着工当時からアゼルバイジャン側などと交渉を重ね、今回、「カザフ側がパイプラインを支持する政治的な宣言に調印する」(アリエフ大統領)という。
 カザフ側は、BTCに連結するパイプラインの二〇一〇年の完成を目指し、一日当たり最大百万バレルを送る計画だ。建設費などで三十億ドル(約三千二百億円)の投資が必要とされるが、ロシア依存脱却の動きは続くものとみられている。
 一方、ウクライナの外相は今月中旬、バクーを訪問し、アゼルバイジャンの石油購入に積極姿勢を示し、BTCから黒海を経由しウクライナに石油を送る案を推進するよう求めた。ウクライナは、黒海沿岸のオデッサカスピ海石油の精製施設を新たに建設する用意を表明するなど攻勢をかける。
 その背景には、ロシアの石油・天然ガスに依存するウクライナが、石油価格などでロシア側と対立を深めていることがある。欧州への統合を目指す一方で、エネルギーでロシアに牛耳られている同国は、安全保障上、エネルギー源の分散は不可欠と判断した。
 在モスクワの石油関係者は「BTCルートは、欧米のエネルギー戦略で重要な意味を持つ。アゼルバイジャンの石油が将来先細っても、カザフが加わることでそれを補うことになる。ルートの完成は旧ソ連圏のロシア離れを促し、ロシアには先のウクライナでの政変にも匹敵する打撃だ」と指摘する。
産経新聞) - 5月23日2時39分更新