社説 「改革」の実行力を競う選挙に(8/10)(nikkei)

 郵政民営化法案の参院否決を受けた衆院選挙は、当然のことながら、まず郵政民営化の是非が争点になるだろう。日本の経済・社会の将来を考えたとき、それにとどまらず財政、税制、医療、年金、農業、地方分権などの制度改革、規制改革や、少子化・若年雇用への対応を早急に進めなければならない。各党とも選挙ではぜひ、それらの改革の具体的な方向と実行力を競ってほしい。

選挙公約で具体的に

 今回の選挙を「改革派」対「守旧派」の争いとみる向きもあるが、実際はそうともいえない。自民党民主党など多くの党には改革派も守旧派もいる。あいまいな選挙公約だと選挙戦の現場で改革に消極的な発言が出て有権者を惑わす恐れもあろう。各党が具体的な選挙公約であるマニフェストで改革の姿と実現への道筋を明確にうたうよう望みたい。

 郵政民営化自民党は、公明党と合わせ過半数を握った場合に、廃案になった民営化法案を再提出するとみられる。この法案は貯金・保険への政府保証の廃止や国家公務員の身分の変更などの点で前進だが、守旧派と妥協を重ねた結果、郵便、貯金、保険の3事業の実質一体経営の継続を可能にするなど問題点も多い。総選挙で国民の信を問う以上、もし自民、公明で過半数をとれるなら、まともな案に作り替えて出し直すのも1つの考え方ではあるまいか。

 民主党は27万人の郵政職員の反発もあって民営化法案に反対し、1000万円の貯金預け入れ限度の圧縮案などにとどめた。岡田克也代表は、いずれは民営化が必要という考え方だ。そうならば今回の選挙で民営化の姿や手順を示すべきである。

 財政赤字の圧縮は、日本経済を危機から救うため急がなければならない。それには歳出の削減を優先すべきで、年1兆円規模で増える社会保障支出の抑制が1つの焦点。とりわけ、医療への支出を抑えながら、その質を高めるためどうするのか。政府は来年度に抜本的な医療制度改革を計画している。各党はそれぞれ医療制度の近未来像と実現の方途を分かりやすく描いてほしい。

 年金問題では、国民年金を含む一元化をとなえる民主党に対し、自民・公明両党は共済・厚生年金の統合を先行して協議するよう主張する。団塊の世代の60歳定年の始まりを2年後に控え、年金問題も悠長に構えていてよい問題ではない。

 4年続けて減らした公共事業については増額を求める声も強い。だが農業土木や道路など必要性が薄れた分野は削減の余地がある。自民党は財政改革を言うなら公共事業の削減継続を掲げるべきだ。民主党諫早湾干拓事業の見直しや農業土木予算の削減などをうたう。それはよいが農業土木削減で浮く財源を、零細農家を含む生産農家への直接支払いに充てるのは、農業の生産性向上につながるのかという疑問も残る。

 税金を効率的に使うためにも地方分権は重要だ。民主党は国の補助金18兆円分を削減し、権限と税源を地方に移すよう主張しているのに対し、自民党は4兆円の補助金削減を決めただけ。それも中央官庁の反発などから完全には片づいていない。自民党は今後の進め方を公約ではっきりさせるべきだろう。

 一方、歳出削減が優先とはいえ、中長期的には増税なしに財政を正常化するのは難しい。小泉純一郎首相は自らの任期中(自民党総裁として来年9月末まで)は消費税を増税しないと言ってきた。しかし選挙で選ばれる衆院議員の任期は4年後の2009年なので、消費税の取り扱いに触れざるを得まい。先に政府税制調査会がまとめた中期的な所得税増税との兼ね合いを含め、税制改革の方針を明らかにすべきである。

既得権の壁どう越える

 民主党は「年金目的消費税」の導入を掲げる。それならば、多すぎると批判の強い公務員の数・給与など歳出の合理化をどのように進めて「大きな政府」を避けるか知りたいところだ。消費税増税に反対する公明党共産党は、歳出削減の進め方を公約で改めて明確にしてほしい。

 規制改革や官業の民間開放では、自民党だけでなく、民主党の出方が大きなかぎを握っている。官業の民間開放などは民主党の応援団である国・地方の公務員の立場を脅かすからだ。仮に、経済活性化に効果があるこれらの政策に条件を付けるなど消極姿勢をとるのなら、その代替案を示さないと説得力を欠く。

 小泉政権独占禁止法の強化や規制改革などいくつかの成果をあげた。しかし日本道路公団の“民営化”は国営の色彩が強く残るものに終わった。それに今回の郵政法案の否決である。首相の指導力不足もあろうが、社会のあちこちに既得権益を主張する集団がのさばり、改革を阻んでいる面は否めない。既得権益の壁をいかに越えるか。各党にこの点への戦略と具体策をぜひ問いたい。