石油備蓄放出、価格抑制の効果は限定的か(ASAHI)

2005年09月04日09時32分

 国際エネルギー機関(IEA)による14年ぶりの備蓄石油緊急放出は、米国の石油製品不足を材料に原油価格が一段と上昇して米景気の変調や世界経済の混乱を招くことを防ぐ狙いだ。しかし、米国の製油所不足や中国など新興市場国の経済成長に伴う需給逼迫(ひっぱく)などの要因は解決しておらず、価格を抑える効果は限定的とみられる。

 昨年来の原油高騰は、米国の製油所不足が一因だ。米国はガソリンなど石油製品の需要が旺盛なのに、全体の15%を輸入に頼り、輸入量は韓国やインドの消費量を上回る。厳しい環境規制などで、製油所の増設は進んでいない。

 国際指標の米国産WTI原油が1バレル=70ドル前後と1年で2倍近くに上がり、世界経済への悪影響を心配する声は強い。ハリケーン被害で米国の石油製品不足が深刻化すれば、原油高騰に拍車がかかる恐れがあった。

 IEAが2日に決めた加盟26カ国による日量200万バレルの備蓄放出で、欧州からガソリンなどが輸出されることになり、米国のハリケーン被災地を中心とする石油製品不足には一定の歯止めがかかる効果が期待される。

 だが、これで相場の高騰が収まるとの見方は少ない。WTI原油先物価格は2日、1バレル=67.57ドルと前日より1.90ドル下がったが、市場関係者は「湾岸戦争以来の放出にもかかわらず、下落はこの程度。価格全体を押し下げていく効果は乏しい」とみる。

 日本も、石油会社の再編などで石油精製能力はピークから2割減り、現在は中国などアジア向け輸出で設備の稼働率は高い。「製品の融通は容易ではない」(石油元売り幹部)という。

 IEAのマンディル事務局長はAFP通信に対し、「石油の不足を避けるためであり、価格高騰を抑えるのが主な目的ではない」と語った。

 産油国側にも手づまり感が漂う。石油輸出国機構(OPEC)は19日の総会で、公式生産枠を日量50万バレル引き上げることを議論する見通しだが、「現状の追認にすぎない」との指摘が強い。

 IEAによると、世界のエネルギー需要は中国やアジアを中心に今後も伸び続ける見通しだ。

 日本や欧米など先進国では風力などの新エネルギーや原子力の導入で「脱石油」の取り組みが進むが、新興国は当面、石油に頼るしかなく、今後も原油市場は高止まりを続ける公算が大きい。

 IEAは今回のような事態に備え、中国など備蓄制度がない国に対し、制度の整備を求め、過度の高騰を避ける狙いだ。