米、対中硬化の兆し 経済拡張、軍事力増強 「米主導体制への挑戦」

 【ワシントン=古森義久】米国のブッシュ政権の中国に対する姿勢が硬化する兆しが語られるようになった。中国がここ3年ほど米国との直接の対決を避け、対テロ戦争での公式の協力を約する一方、現実には米国の利益に反する多様な動きを強めてきたという認識が2期目のブッシュ政権の対中政策を変える原因になりつつあるという。
 米中関係は二〇〇一年九月の同時テロ以降、中国が米国の対テロ戦争に協力を約したことを中心に摩擦や衝突の少ない状態が続いてきた。しかし米側での対中協調の姿勢が変わる兆しとしてはまずブッシュ政権にきわめて近い下院国際委員長のヘンリー・ハイド議員(共和党)による二日の香港での演説があげられる。
 同議員は中国の急激な経済拡張が軍事力増強、政治影響力拡大とあいまって東アジアから全世界にいたるまで米国の利益を損なう形で混乱を生み始めたとして、この中国の動きを「第二次大戦以後の米国主導の国際システムへの挑戦」と特徴づけた。
 そのうえで同議員は、中国の最近の政策には懸念を生む要素が多いとして中国が(1)北朝鮮核兵器開発の阻止に真剣には取り組んでいない(2)イランの核兵器開発でも米国の阻止を妨げる動きをとっている(3)パキスタンの核開発をも支援した(4)自国のこの種の行動の国際的な影響への配慮が不十分である−ことなどを指摘した。
 ハイド議員はこの演説で中国の独裁や弾圧までを非難したため中国政府は三日、「中国への不当な悪意の攻撃」(香港駐在の外務省当局者)として激しく反発した。
 一方、同様にブッシュ政権に近いヘリテージ財団のジョン・タシック研究員も、一日の米紙への寄稿論文で、「米国のアジア政策の新たな出発」と題し、第二期ブッシュ政権はアジアを重視し、とくに中国のアジアでの影響力拡大に強固な姿勢で応じるようになるとの予測を明らかにした。
 同論文は中国が最近、経済力を利用して東南アジア諸国などに米国との関係を薄めて中国に傾斜させることを目的とする多角的な働きかけを進めるようになったと指摘、その一例としてフィリピンへの接近で中国がフィリピンとの情報収集協力協定を結ぶようになったとし、フィリピンの米国からの離反に示されるようなアジアからの米国の撤退を図っていると警告している。
 同論文はこれまで東南アジア諸国が中国に傾斜したのはブッシュ政権パウエル国務長官が中国の拡張志向になんの反対の意も言明しなかったことも大きいとする一方、後任のライス氏は「アジアでの米国の伝統的な主導的地位を堅持し、それを脅かす中国の動きには強固に対応する」という新政策をとると予測した。
 同論文はその根拠の一つとして、ライス氏が四年前に発表した外交政策論文での「中国は現状維持のパワーではなく、アジア太平洋地域での米国の役割に憤慨している」という記述を紹介した。
産経新聞) - 12月5日2時38分更新